「当施設における食支援の現状」 志知理紗代(ST) 樋口真理子(CW)

学会名 第21回全国介護老人保健施設大会
メイン会場 ホテルグランヴィア岡山
開催地 岡山県岡山市


【はじめに】最期まで口から食べて頂くために、摂食嚥下障害を理解した上で安全な支援を選択・実施できる能力を持つ職員の育成が必要である。私達は、安全な食支援の実践に向けて、当施設での現状を把握するための調査を行ったので、報告する。


【方法】
書面調査(無記名アンケートと選択式設問による食支援技術の知識確認)と実態調査(STによる食支援場面の観察)を行った。調査項目は、1.嚥下障害への関心、2.食支援時に感じる困難、3.食支援技術(@食形態の選択A摂食姿勢の設定Bスプーン介助の方法Cトロミ飲料の作成D嚥下の確認)である。


【期間】

書面調査:平成22年6月11日〜25日(14日間)

実態調査:同期間中の平日の昼・夕食時(10日間)


【対象】

入所担当の介護・看護・リハビリ職員(44名)


【結果】

1.書面調査:回収率73%

 1)嚥下障害への関心(図1)

94%の職員が、嚥下障害者への食支援に関心があると回答した。

 2)食支援時に感じる困難(図2)

「誤嚥への不安」が22名と最も多く、「忙しくて対応ができない」という回答も2名あった。

3)食支援の技術(表1)

  スプーン介助法は16名(50%)、トロミ飲料の作成については21名(66%)の職員が「自信を持って行える」と回答した。
2.実態調査

職員1名が同時に支援を行う利用者数は2名〜4名、1名の食支援にかかる時間は15分〜20分である。この状況下で、食支援が適切に行われているかを観察した。

@食形態の選択:食形態変更前後に嚥下評価を行わない例が見られた。特に、常食からキザミ食へ変更する際に評価を行うことが少なかった。

A摂食姿勢の設定:椅子の角度は適正だが体幹の傾きや頭頸部の角度が指示と異なるなど、適切な摂食姿勢に設定されていない例が見られた。正しく設定されていたのは、のべ10調査中7回(70%)である。

Bスプーン介助の方法:嚥下能力に関係なく、大スプーンを用いて速いペースで介助を行う傾向があった。スプーンの進入角度については、ほとんどの職員が正しい方法を実践していた。

Cトロミ飲料の作成:「ジャム状」で用いる際のトロミ剤の倍量を投入しゲル化した物を提供した、コップ摂取の利用者にジャム状トロミをスプーンなしで提供したなどの行為が、日常的に行われていた。昼食時に適正な濃度で提供されていたのはのべ40調査中7回(18%)だった。適正な濃度で提供した職員は「トロミ作成図」を参照するなどの確認作業を行っていた。また、トロミ剤投入後に撹拌せず提供するなどの行為がのべ10調査中2回(20%)で観察された。

D嚥下の確認:嚥下の瞬間に利用者を見ていない、嚥下を確認せずに次々と口の中に食物を入れる状況が観察された。確認方法は口腔内残渣や声質変化による事が多く、喉頭の動きによって確認する職員はごく少数であった。


【考察とまとめ】
書面調査から94%の職員は、嚥下障害についてある程度の関心と知識があると考えられた。しかしながら実態調査を行ったところ、適切な食支援が徹底されているとはいえなかった。適切な食支援が行えない理由として、多くの先行研究は「多忙」を挙げている。しかし、書面調査では「忙しくて対応できない」という意見は少数であった。また、1名で複数の利用者の支援を同時に行う状況下でも、適切な対応ができている職員も存在した。このことから、適切な食支援が「できない」のではなく、「能力的には可能だが、実施しようとしない」ことが問題ではないかと推測した。問題の解決策として、摂食嚥下障害者の支援に意欲的な職員を中心とした「食支援チームの結成」と「食支援提供体制の構築」を実現させ、常に適切な食支援をしていきたい。

図1  図2
表1