「当施設における介護職員処遇改善施策の成果」 佐藤 雅則(事務局長)

学会名 第6回 東海・北陸ブロック老健大会
会 場 鳥羽シーサイドホテル
開催地 三重県鳥羽市


【はじめに】
 
わが国では、世界に類を見ない超高齢化社会を目前にして、平成6年に高齢者保健福祉計画(新ゴールドプラン)が制定され、介護施設の整備が急速に進められてきた。しかしながら、そこで働く介護職員が長年勤続できる労働環境の構築は未完成であり、「低賃金」や「就労条件の悪さ」などから、介護職員の離職率は高く、介護施設では慢性的な人材不足が続いている。
 平成214月、介護保険制度の改正により介護報酬がプラス改定されたことも追い風になり、当施設では介護職員の処遇改善を促進することができた。ここでは、当施設が実施したいくつかの施策とその効果を紹介し、更なる処遇改善を行う上での要望事項を述べる。

【介護報酬プラス改定前の取組】
 1)平成195月(開設後10年目)、10年勤続者を表彰し、10万円の賞金とリフレッシュ休暇を附与した。2)平成204月、職位ごとに独自の「職務基準」を定め、それに基づく考課システムを構築し人事考課制度を見直した。3)介護福祉士受験有資格職員に取得を勧め、施設の介護福祉士による受験対策講習会を開催した。4)平成211月、仕事と育児などプライベートな生活とのバランス(ワークライフバランス)の確保を支援する目的で、施設内に「託児所」を設置した。

【介護報酬プラス改定後の取組】
 1)平成
214月、「介護福祉士手当」と「介護従事者手当」を創設して支給した。2)同年10月施設内託児所の利用定員を増やした。

【施策の成果】
 
1)平成216月、「みのもんたの朝ズバッ!」が全国200(三重県内5)の介護施設へ緊急アンケート調査「月給は2万円アップしましたか?」を実施した。当施設も19日(金)に回答依頼を受け、23日(火)に回答した。24日(水)0530より放映された調査結果をみると、2万円アップした施設はゼロであったが、当施設が積極的に処遇改善に取り組んでいることが確認され、介護職員の満足度は高かった。2)財団法人介護労働安定センターは「平成20年度介護労働実態調査」を実施し、介護職員の離職率21.9%(その中の1年未満の離職者44.4%)を公表した。当施設における平成216月から翌年5月までの間の離職率は9.3%(4/43)であった(図)。この点からも、当施設が取り組んでいる介護職員の処遇改善施策に一定の効果があったことが確認できた。

【更なる処遇改善を行う上での要望事項】 
 舛添前厚労相も平成
214月の介護報酬の改定で期待されたほどの効果がみられなかったことを認め、「介護職員処遇改善交付金」も時限的であり、根本的な解決に結びつかないようである。精神身体機能が障害された高齢利用者のニーズは多様であり、「高レベルの介護」は誰もが容易にできるものではない。それは、専門的な知識と技術をもった「介護福祉士」が担当することにより成し遂げられるものである。このたびの介護保険制度の改正で、介護福祉士の配置加算が新設されたことも、介護福祉士による高度な介護の重要性を明示している。しかしながら、現行の介護保険制度のもとでは、優秀な人材を確保して育成し、「勤続」できる環境の構築を目指せば目指すほど、限りある収益と経年的人件費割合の増加が経営を圧迫し、「経営破綻」が生じかねない。すなわち、現行の介護保険制度には致命的な問題がある。
 したがって、私たちは、まず、介護職員の平均勤続年数に応じた介護報酬の単位を設定するなどの抜本的な法改正を強く要望する。その財源確保のために、「消費税」の増税も選択肢になりうるが、その使途を介護職員の処遇改善を視野に入れた「社会福祉制度の向上」に限定すれば、納税者である国民の理解を得やすいと考える。

図1  図2