学会名 第20回全国老人保健施設大会
会 場 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター
開催地 新潟県新潟市

【はじめに】
 超高齢化社会に突入した我が国では、介護を必要とする高齢者人口も増加の一途を辿っている。様々な疾患を抱えた要介護者が入所している老健では、必然的に介護する上でのリスクも高まってくる。そのような状況から、介護現場においてもリスクマネジメントの重要性が認識されるようになり、各施設においてリスクマネジメントの取り組みが積極的に行われている。
 私達も、専門職としての技術や知識を高め、利用者の自立支援のために、充分にリスク管理された上でサービスが提供できるよう努めている。その一環として、当施設ではリスクマネジメント委員会を発足させ、既に6年が経過した。それ以前には、利用者個別のマネジメントは行っていたが、全体としてのリスクの動向を把握し、分析することは行っていなかった。
 そこで今回、施設全体としてのより優れたリスクマネジメントの確立を目的とし、過去のひやりはっと事例を見直して、以下に報告する。

【施設概要】
開設日 平成9 5 10
構造・規模 地上2 階 延床面積 4,750m2
療養室 29 室(4 人部屋:23 室、2 人部屋2 室、個室4 室)
利用定員 入所100 名 通所40

【対象期間と方法】
 平成
17 7 月〜平成19 3 月を調査期間とする。その期間に提出されたひやりはっとと事故報告書を見直し、全国介護老人保健施設協会の示す背景の要因分類の定義に基づき、動向を分析する。その分析結果を基に、リスクマネジメント委員会で今後の対策を検討する。

【結果】
図1に要因分類別のひやりはっと件数、事故件数を積み上げたグラフを示す。
(1)報告書の年間提出総数
平成 17 年度 ひやりはっと241 件(月平均27 件)、事故0
平成 18 年度 ひやりはっと238 件(月平均20 件)、事故3
平成 19 年度 ひやりはっと242 件(月平均20 件)、事故1件
(2)報告件数の推移:平成 1718 年度でやや減少したものの、平成19 年度では増加傾向を認めた(図1)。
(3)要因分類の推移(図1)
・環境要因は少なく、利用者側とケア提供側の要因が多い。
・一つのひやりはっとに、利用者側とケア側の双方に原因のあることが多い。
・ケア側のみの要因では、いわゆる初歩的なケアレスミスを認めた。

【考察】
 今回、過去3 年間の当施設におけるひやりはっと及び事故報告事例の動向を分析した。その結果、報告件数は、委員会が発足した平成17年7月から18年3月にかけて徐々に減少し、平成18年度はほぼ横ばいで推移し他ものの、平成19年度に入り再び増加傾向を示した。また、背景の要因分類では、利用者とケア提供者の双方に原因があると考えられる事例の増加を認めた。これらは平成19 年度に入り、経験や技術の未熟な新規採用職員が増加したこと、そして、徘徊や異食といった行動障害を呈する利用者が増加したことも一因であったと考えられる。これらを踏まえ、委員会で対策を検討し、利用者個別のマネジメントの継続、施設内外研修の定期的な実施、見守りが強化できるような業務の見直しを行った。そして、環境整備の観点から、リスクマネジメントが少しでも容易になるように、平成20 年には食堂を各階に設置した。 
 今後は、この新しい環境下でのデータを収集し、私達の取り組みの成果を再度評価したい。

図1