「学際的介護が入所利用者の認知機能に及ぼす効果」 竹内真由美(RN・CM) 山際 幹和(MD)

学会名 第20回全国介護老人保健施設大会
会 場 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター
開催地 新潟県新潟市

【目的
 私たちは、当介護老人保健施設(老健)通所利用者の身体的機能の改善を標的とし介護・看護・リハビリテーションを組み合わせた学際的介護が、身体機能のみならず精神機能を向上させることを観察し、三重医報第579 号(2009 年)に論文発表した。その一方で、老健には、さまざまの事情により在宅復帰できず、数年にわたる長期入所を余儀なくされる方々も少なくない。私たちが検索した範囲内では、そのような長期間入所利用者の身体機能や精神機能に対して、老健での介護・看護・リハビリテーション専門職による学際的アプローチが、どのような効果をもたらすかについて言及した研究報告はみあたらない。今回は、それらの点の解明を目的として検討を行った。

【対象・方法】
 介護老人保健施設みずほの里(当施設)に3ヶ月間以上継続入所し、介護・看護・リハビリテーションを受けた女性入所者118 名(年齢:63-98 歳に正規分布、平均±標準偏差:84.7±6.1 歳)を対象として、約3 ヶ月間隔で実施された長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)による認知症の評価結果を統計学的に解析した。

【結果】
1)初回(入所時)から12 ヶ月後までの間、HDS-R 得点の中央値(15-16)と平均値(14.7-16.0)の有意な変動はなかった。初回値と比較すると、24 ヵ月目と36 ヶ月目のそれらの値(13 13.9 および10 12.9)は明らかに低下した(Wilcoxon 符号付順位検定 p<0.05)。Friedman 検定でも36 ヶ月間で得点が有意に変動したことが示された(p=0.0022)。すなわち、入所から12 ヶ月間は、集団としてみた女性入所者の認知機能の悪化はないが、24 ヶ月目には悪化の兆しが現れ、36 ヶ月目では有意に悪化したと要約できる。(図1)
2)年齢が
85 歳未満(44名)と85 歳以上(41 名)の2群の間でHDS-R 得点の中央値と平均値の経時的推移を解析したところ、両群ともに入所後24 ヵ月目以降は中央値と平均値が低下し、とくに、36 ヶ月後の値は明らかに初回値と比べて低下していた。
3)初回
HDS-R 得点が20 点以下(認知症の疑い61 名)と21 点以上(認知症なし24 名)の2群間でHDS-R 得点中央値と平均値の経時的推移を解析したところ、20 点以下群の平均値と中央値は24 ヵ月目以後下降し、36 ヵ月後の値は初回値と比べて明らかに低かった。しかしながら、21 点以上群では、36 ヶ月間で平均値と中央値の低下は全く認められなかった。
4)入所時の
HDS-R 得点が1720 点(軽度認知症の疑い)であった23 名の中の11 名(47.8%)が3 ヵ月後に21 点以上に改善した。その後12 ヶ月間以上継続入所した7 名中6 名は12 ヵ月目でも21 点以上を維持していた。他方、入所時得点が21 点以上であった27 名中の6 名(22.2%)で3 ヵ月後の得点が20 点以下に悪化した。この中の5 名は12 ヶ月間以上入所を継続し、12 ヶ月目で4 名の得点は21 点以上に回復していた。5)当施設入所者のHDS-R 測定の信頼性は極めて高かった(Test-Retest Reliability Spearman 順位相関係数ρ=0.856、p<0.0001)。

【考察・結論】
 老健での長期間入所を余儀なくされる利用者が少なからず存在し、解決策が模索されているが、視点を変えると、老健での長期間の介護・看護・リハビリテーションは障害を持った高齢者の身体機能のみならず精神機能の悪化速度をも効果的に抑制しているといえる。


図1 HDS-R得点の経時的推移