学会名 | 第19回全国介護老人保健施設大会 |
会 場 | 京都国際会議場 |
開催地 | 京都府 |
1.はじめに 介護保険改正に伴い、多職種協働の必要性が以前にも増して強く言われている。今回、自宅で転倒が多く精神的に不安定な状態が続いていた通所リハビリテーション(以下通所)利用者に対して、多職種協働のもとアプローチを行った結果、転倒の頻度が減り心身機能ともに改善したので報告する。 2.症例紹介 症例は88歳女性、既往歴に下肢静脈瘤、血栓性静脈炎、高血圧症がある。 平成18年8月の利用開始時よりADL、基本動作能力とも自立レベル、自宅ではつたい歩きで安定していた。施設内ではシルバーカー歩行が可能で、リハビリは移動動作能力の維持を目的にT字杖での歩行訓練、階段昇降訓練、立ち上がり訓練を行っていた。認知機能に問題はなく心身機能も維持されていたが、徐々に視力低下を来し、平成19年5月に白内障の手術を受け軽度の視力回復を得た。その後自宅で転倒するようになり、心配事があると表情暗く反応も乏しい日が多くなった。次第に小刻み歩行が著明となり、歩行が不安定な際は車椅子で対応していた。 3.介入内容 サービス担当者会議にて「転倒が多く日中1人で過ごすことが危険である」、「精神的に不安定な状態である」、「身体機能及びADL能力低下の恐れがある」の3つの問題点を抽出した。これらの問題点に対し、「転倒予防」「精神的に不安定となる要素を取り除く」「身体機能及びADL能力の維持」の3つをケア目標とし多職種協働のもとにアプローチを開始した。介入期間を平成20年1月中旬から2ヶ月間、その前後1ヶ月間を評価期間と設定した。 3.1.住宅環境の整備 自宅での転倒を予防するために作業療法士、福祉用具専門員が住宅をチェックし、家族の目が届くように居室場所を変更、動線である勝手口、廊下、トイレに手すりを設置した。 3.2.通所利用時での精神的サポート 通所の利用日を増やし、1人で過ごす時間を減らした。精神的に不安定である症例に対し、すべてのスタッフが受容的に関わるように対応方法を統一した。帰宅時に不穏となるため、固定スタッフが付き添い訴えを傾聴し、スタッフの仲介で対人交流の拡大も図った。 3.3.身体機能へのアプローチ 利用日追加による症例の疲労を考慮し、歩行中心の訓練から両下肢挙上、膝伸展運動、立ち上がり等の両下肢筋力強化訓練へリハビリ内容を変更した。また、車椅子の使用頻度が増えた症例に対し、できるだけ歩行の機会を持つよう心がけた。 4.結果 介入効果の判定には、観察記録と質問式調査、N式老年者用精神状態尺度、N式老年者用日常生活動作能力評価尺度を介入前後で実施した (表1.2.3.4)。 質問式調査は家族を対象に実施し、各項目に対して「大変多い、多い、変わらない、少ない、大変少ない」の5段階で回答してもらった。 5.考察 長倉はそれぞれの職種が統一した理念のもとそれぞれの専門性を発揮し、老健施設の総合力としてチームケアを実践することが不可欠であると述べている。今回、自宅での転倒頻度が増え精神的に不安定となった症例に対し、あらゆるスタッフが情報を共有し、統一した関わりを持つことを企てた。その結果、症例の心身機能は向上した。これは、すべてのスタッフが症例に寄り添うケアを心がけ、日々変化する症例の心身状態にきめ細やかに対応できた結果であると考える。チームアプローチの重要さは周知の通りだが、実践することは容易ではないとされている。今回の経験から私達は、利用者本位のケアを提供するために不可欠なチームアプローチを円滑に行うためのシステム作りが重要であると考える。 これからも利用者のニーズに対応したチームアプローチを進めていくことで、地域に密着した老健施設の役割をさらに担っていきたいと考える。 |
表1.観察記録(特筆すべき内容を抜粋)
表2.質問式調査結果
表3.N式老年者用精神者状態尺度(50満点)
表4.N式老年者用日常生活動作能力評価尺度(満50点)
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