「当施設における敷地内全面禁煙の達成」 鈴木 正人(CW)、安全衛生委員会

学会名 第7回東海・北陸ブロック老健大会
メイン会場 フェニックスプラザ
開催地 福井県福井市

【はじめに】
 喫煙の悪影響、なかでも、受動喫煙による健康被害は重大な社会問題である。
2003年に施行された健康増進法第25条には、管理者は受動喫煙を防止する有効な措置をとらなければならないことが明記され、多くの事業所で禁煙化が進んでいる。
 医療・福祉にたずさわる公共性の高い当施設でも、利用者とその家族、施設および外部委託職員や出入り業者の健康を守るために、安全衛生委員会(以下、委員会)が主導して敷地内全面禁煙の達成に取り組んだ。その結果、20104月からの6カ月間でその目的を達成し、より良い介護・看護・リハビリテーションを提供するうえでの進歩を遂げたので、その経過を報告する。

【取り組み内容の経過】
4月:敷地内全面禁煙に向けて、利用者と職員に対する禁煙啓発活動、喫煙場所の遠方への移動、喫煙可能時間の短縮、喫煙場所の撤去を段階的に取り組むことを計画した。
5月:部署会議で職員に「敷地内全面禁煙の必要性」などを説明し、理解を求めた。喫煙場所を出入り口横から20メートル遠方の敷地内の一角へ移動した(1)
6月:部署会議と朝礼で禁煙に対する理解を求めた。
7月:通所利用者に取り組みを説明し、家族にはそれを文書化して配布して協力を求めた。職員の「喫煙時間規制なし」を「勤務時間内禁煙」に変更した。
8月:喫煙場所で委員が喫煙者に声がけをし、取り組みに対する理解を求めた。禁煙のポスターをホールや出入り口に掲示した。
9月:通所利用喫煙者に対して「敷地内全面禁煙の必要性」を説明し、協力を求めた。
10月:たばこの値上がりに合わせ、喫煙場所を撤去し、敷地内全面禁煙を達成した。

【結果】
 当施設は、委員会主導のもとに6ヶ月間で敷地内全面禁煙を達成し、介護・看護・リハビリテーションを提供するうえでのより良い環境を整備することができた。副産物として、当施設職員77名中の喫煙者は、取り組み前の25名(32%)から9名に減少した(図2)。

【考察とまとめ】
 20004月以降、当施設入所利用者は、施設内での禁煙を義務づけられ、それと前後して、屋内での職員の喫煙も禁止され、施設建物内での受動喫煙は発生していなかった。しかしながら、出入り口近くの屋外喫煙場所での通所利用者や職員の喫煙は認められていたので、煙に含まれる有害物質の建物内流入や喫煙者の呼気を介する有害物質の屋内放出はゼロではなく、受動喫煙の問題は完全には解決していなかった。
 敷地内全面禁煙に向けての取り組みを開始した時点で、喫煙職員からは、「無理だ」、「喫煙者の権利は」、「職員が離職するのではないか」、「通所利用喫煙者が利用を中止するのではないか」などの意見が出たが、非喫煙利用者や職員の被る健康被害や介護老人保健施設の有する公共性や社会的影響を考えれば、間違いなく敷地内全面禁煙が望ましいことを啓発して委員会活動を行った。その結果、喫煙職員の十分な理解を得て、わずか6ヶ月間で目標を達成することができ、これを不満とした離職職員や利用中止者の発生も皆無であった。これは、まず、委員会が主導し、十分段階的に真摯に取り組んだ事が奏功したと考えられ、また、委員の中に2名の喫煙者がいて、喫煙者の心情を十分に理解しながら活動を推進したことも、成功の一因であったと考えられる。
 喫煙職員は、決して完全禁煙を強要されたわけではなかったが、葛藤し苦悩しながら、禁煙ガムや禁煙パッチの使用、禁煙外来受診等といった個人的努力を重ね、16名の禁煙成功職員が誕生した。
 当初最も懸念された点は、5名の通所利用喫煙者の協力が容易に得られるか否かであった。利用日毎に丁寧に趣旨を説明し、喫煙の弊害を繰り返し説明することで同意が得られ、利用者職員間の信頼関係も強化され、利用者が煙草の害から遠ざかることを喜ぶ家族からの感謝の言葉もあり、当初の懸念は杞憂に終わった。

図1  図2 



<安全衛生委員会>
鈴木 正人委員長、岩塚 牧子、中井 健人、樋口真理子、松本 桂子、
志知理紗代、吉田 臣吾、井口 健司