「車いす座位の姿勢改善への取り組み〜座位保持不能な一症例を通して〜」    仮谷妃呂子(OTR)   野口あゆみ(OTR)   山路 美加(CW)

学会名 第17回全国介護老人保健施設大会
会 場 グランメッセ熊本
開催地 熊本県

【はじめに】
高齢者の車いす座位は,主疾患さらには,廃用症候群や拘縮,変形等といった二次的な要因で困難を来たす場合が多い.適切な座位姿勢は,身体・精神機能に良い影響を与え,また対象者の安楽性,機能性,介護の受けやすさといった点からも重要である.そこで今回,一症例に車いす座位の姿勢を改善するための工夫を行い,若干の知見を得たので報告する.

【対象】
79歳の女性,介護度5自立度C2-M.疾患名は,頭部打撲後遺症による頚椎症(C5/6)と認知症.高度の廃用症候群で,全身的に筋緊張高く,円背である.四肢に関節可動域制限あり,座位保持は不能,ADLは全介助である.言語的コミュニケーションは単語がたまに一つ出る程度,非言語的コミュニケーションは,身体的動作(表情,視線,上肢の動き等)で表現される.

【介入前】
・リクライニング機能付き車いす        ・座面はスリングシート
・頚部にクッション2つ            ・体幹前部にクッション1つ
介助者によるポジショニングの日差を認め,頚部過伸展位での食事介助がみられた.

【介入】
ヘッドサポート:ダンボールで作製.
バックサポートと座面:ソリッド式(板)に変更.
アームサポート:木製で「コの字」型.
マニュアルの作成:どの介助者でも常に同じポジショニングができるように配慮.
・リクライニング0度         ・臀部は座面の中央,骨盤は水平に位置させる
・頚部は中間位に位置させる      ・両上肢はアームサポートにのせる

【座位機能の検査と方法】
<安楽性の指標>介入前後の座位保持時間を計測.
*測定基準
時間:昼食後3時間が経過してからとする.
開始:前述した介入前後のポジションがとれてからとする.
終了:対象者が疲労の意思表示をした時,または開始時より身体軸が10度ずれた時とする.(両肩峰を結んだ線の中央を通る垂直軸を0度とし,左右10度の所に印をしておく)
<介護の受けやすさの指標>介護職員へのアンケート調査,OTによる観察.

【結果】
<座位保持時間>介入前の平均値は4.12分,介入後は8.61分であった。各平均値間において,t-検定の結果,有意差を認めた.(p<0.05)(図1)
<アンケート結果>17人の介護職員が回答.(表1)
<OTによる観察>
・食事介助時:体幹を支持したり,修正する回数が減少した.
・車いす駆動介助:体幹の支持が,ほぼ不要となる.
・上肢運動:顔を掻いたり等の能動的な動作が出やすくなった.

【考察】
今回の介入では,座位保持時間において有意差が見られ,アンケート結果やOTの観察からも介入が効果的であったことが示唆された.また機能性の指標として,嚥下機能を診るVideofluorography検査によると,リクライニング60度で誤嚥を認め0度で嚥下良好だった.栄養という観点からは,介入前はBMIが17.58と低く,ペースト食を特殊食器「らくらくごっくん」で全量摂取することに重点を置いた.これらを総合的に考え,我々はこの座位姿勢が対象者にとって望ましいという結論に至った.個々に適合した車いす座位を提供するには,調整可能なモジュラー型車いすが望ましいのは周知の通りである.しかし,各施設で整備されているところは少ないのが実情である.不適切な車いす座位は,さらに褥創や脊柱変形等といった二次障害を引き起こす可能性があり,セラピストを始め他職種が協働して,積極的に取り組んでいかなければならない課題の一つであると考える.

図1


表1

セッティングのわずらわしさ

大変らく

らく

どちらでもない

わずらわしい

大変わずらわしい

0%6%

6%29%

53%53%

41%12%

0%0%

要する時間

大変かからない

あまりかからない

どちらでもない

まあまあかかる

大変かかる

0%0%

0%6%

6%29%

59%24%

6%0%

マニュアル

大変便利

まあまあ便利

どちらでもない

あまり便利でない

大変不便

0%6%

23%70%

53%18%

6%6%

18%0%